『星空の16進数』『イミテーション・ガールズ』

6/29に新刊『星空の16進数』をKADOKAWAから出版します。また、本日6/12発売の『野性時代』誌に、『イミテーション・ガールズ』という短編ミステリが掲載されます。このふたつはそれぞれ独立した小説ですが、合せ鏡のような構造を持つ連作にもなっており、続けて読むとよりお楽しみいただけるようになっています(どちらが先でも大丈夫です)。

『イミテーション・ガールズ』は2002年が舞台の作品で、榊原みどりという17歳の女子高生が主人公です。みどりの父親は私立探偵をやっており、同級生から父親のもとにある依頼が持ち込まれ……というところから二転三転していきます。青春ミステリですが、ハードボイルド小説の風味もあります。

『星空の16進数』はそれから15年後、私立探偵として働いている32歳のみどりが出てきます。結婚して母となり、育児休暇を取っている彼女に対し、17歳のウェブデザイナーである菊池藍葉が人探しを頼み……というところから物語がはじまります。両作ともみどりが主人公なのところは同じですが時代が全くことなり、彼女が17歳だったころの物語と、彼女が17歳の少女に依頼を頼まれる物語とで、ちょうど鏡のような構造になっているのです。

お気づきになったかたもいらっしゃるかもしれませんが、もともとこのみどりという人は、拙著『虹を待つ彼女』に少しだけ出てきた女性探偵でもあります。『虹〜』ではもっと出番を作りたかったのですがプロットの要請上あまり出る幕がなく、一度きちんと彼女の話を書きたいと思っていたところ、今回実現の運びとなった次第です。

創作というのは不思議な流れがあるもので、『星空の16進数』はもともとみどりがメインの物語でした。ですが書いているうちに依頼主の藍葉のほうがむくむくと膨らんできて、最終的には二人の物語として、当初の予定とは全く違う内容でまとまりました(書影に描かれているのは藍葉のほうです)。さらに、この作品の改稿をしていたところ、「みどりを主役にした短編を書きませんか」というお話をいただき、彼女の若いころの話として『イミテーション・ガールズ』という短編が生まれました。両方とも最初の構想時には考えもしていなかった展開です。

ついでに遡ると、『虹を待つ彼女』の初稿を書いていたときは、みどりは私立探偵ですらなく、京都大学の助教だったのです。原稿を書き進めるうちに彼女は私の思惑を超えて勝手に動き出し、いつの間にか私立探偵となり物語の中にぴたりと収まっていました。いまでは現在の形以外のみどりは私としては考えられず、こうなってくると作者が登場人物を書いているのか、登場人物に作者が書かされているのか、よく判らなくなってきます。

というわけで、両作とも大きな流れの中で手を動かしているうちに、いつの間にか生まれ落ちたという感じの作品です。私は自作の登場人物はゲスな悪人含め全員大好きですが、中でもみどりは特別なキャラクターで、この八ヶ月ほど彼女と行動を共にできたことは幸せでした。不思議な流れの中で生まれたこの二作、ぜひお楽しみください。

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映画オールタイム・ベスト10

下記に参加いたします。
映画オールタイムベストテン:2017 - 男の魂に火をつけろ!

以前の記事。
音楽映画ベスト10 - 逸木裕のweblog

1.椿三十郎

椿三十郎

椿三十郎

黒澤映画は傑作からあまり傑作ではないのまですべて好きなのですが、『椿三十郎』はうちでも偏愛している一本です。ミステリの要素からアクションの要素まで、実に計算されて配置されている上、川に落ちる椿の美しさ、闇の奥からぬっと現れる三十郎、ラストの決闘など、アート映画としての美しさも兼ね揃えています。

2.母なる証明

母なる証明(字幕版)

母なる証明(字幕版)

冒頭の印象的なダンスから、殺人事件の捜査、そしてラストまでノンストップで突っ走る韓国映画の最高傑作。ひとりの人間を表現し尽くしたラストや、夜の街をひとりで見上げる主人公の寄る辺なさなど、アートでしか説明できないものを表現しようとしているところも好きです。

3.パンズ・ラビリンス

美しい幻想の世界と、陰惨な現実がパラレルに描かれるダークファンタジーの傑作。これも結末が本当に素晴らしいと感じます。

4.情婦

情婦 [DVD]

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ビリー・ワイルダーは最も好きな映画監督のひとりで、『サンセット大通り』『お熱いのがお好き』なども好きなのですが、最も好きなのは『情婦』です。映像でしかできないあるトリックが有名ですが、人間のドラマとしてもよくできており胸が熱くなります。

5.天空の城ラピュタ

天空の城ラピュタ [DVD]

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これは語りだすと8000字くらいかかるので割愛。。。

6.ソナチネ

ソナチネ [Blu-ray]

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映画全編を取り巻く痛々しい暴力性と、主人公たちを癒やす沖縄ののんびりとした情景、その間を揺れ動く主人公たちが切なくて哀しい。久石譲さんの音楽も最高の仕事と思います。

7.私の少女

私の少女 [DVD]

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2015年に見た韓国映画で、完全にやられました。父親から虐待を受けている少女を、警察官が保護するというシンプルなプロットの中に、実に重層的なドラマが練り込まれております。ラストがまた綺麗なんです。

8.ハナ 奇跡の46日間

ハナ 奇跡の46日間 [DVD]

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卓球を舞台にしたド直球のスポ根映画。笑って泣ける、熱い映画です。いまはなき虎ノ門ガーデンシアターという半野外劇場で見るという体験も、いい記憶として残っています。

9.ブロンコ・ビリー

ブロンコ・ビリー [DVD]

ブロンコ・ビリー [DVD]

クリント・イーストウッドは黒澤、ワイルダーなどと並んでもっとも愛している映画監督のひとりですが、一番好きなのはこれです。「失われつつある最良のものと、それでもなんとか折り合いをつけていく……」というのがイーストウッドの作家性と私は認識しているのですが、それがもっともドラマティックに描かれている作品だと思います。次に好きなのは『荒野のストレンジャー』です。

10.パルプ・フィクション

最初にこれを見たときの衝撃は忘れられません。時系列がぐちゃぐちゃになっていて、いかにも技巧的な作りなのに、最後にはしっかりとした一本のドラマとして観客に伝わってくる。懐古趣味的な音楽の使いかた(特に冒頭のミザルーと、中盤のチャック・ベリー)も素敵です。

少女は夜を綴らない

明日7/21、『少女は夜を綴らない』という小説が出ます。私の二作目の小説です。

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一作目の『虹を待つ彼女』は、人工知能を中心に描きましたので情報小説やSF的な側面のある作品だったかと思いますが、今回はテクノロジーの話はスマートフォンとLINEが出てくる程度で、前作とは違った切り口、異なった読み味を込めたいと考えて書きました。

表紙に描かれているのは主人公の理子という女の子です。孤独で、不安で、暗いものを抱えている少女です。この10ヶ月ほどは私にとって、彼女が何に出会って何を感じるのかを探究する日々でもありました。ぜひ皆様も、理子と一緒に、彼女の出会った事件と感情とを共にしていただけますと嬉しいです。よろしくお願いします。

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