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ジョブホッパーが転職しづらい理由を考えた

「脱社畜ブログ」さんの「「転職」はサイコロの振り直し」というエントリを読んだ。

そして、何より日本のサイコロで不思議なのは、振れば振るほど出目が悪くなっていくことである。転職を繰り返すと「長く勤められない人」と評価され、転職先が離職率の激しい酷い職場しか残らなくなっていく。自分にあっている職を実際に何度か体験しながらさがす、といった行為は一般的には認められておらず、どんな職場だろうと入ったからには一定期間は勤められるような人でないと、「価値の低い人材」とみなされてしまう。

http://dennou-kurage.hatenablog.com/entry/2013/02/14/211422

人には「自分に合っている環境」というものがあるのは間違いないし、ブラック企業潰れろという話には100億パーセント同意するのだけれど、それとは別の問題として、企業側が転職を繰り返している人を雇わないというのは仕方がないと思う。企業として正社員を雇うということは、大きなリスクを伴うからだ。

投資の世界には「リスクプレミアム」という基本的な概念がある。リスクを取った分だけ、大きな対価が支払われるということだ。投資をやらない人でも、競馬で人気のない馬に賭けたほうがオッズがあがることを考えてもらえればわかると思う。人気のない馬に賭ける=賭け金を失うリスクが高い=成功した場合は高い収益が期待できる、ということだ。

企業はなぜ正社員を雇うのか。それは「リスクプレミアムを得たい」からだと思う。私はフリーランス稼業が長いけれど、私のような業務委託の傭兵は働きが悪かったり、働きがよくてもプロジェクトの収益が悪かったりしたら即クビに出来る。一方で正社員には「解雇要件」というものがあってクビが切りづらい。雇ってみて駄目でも、クビにするのにかなり労力が必要になる。

そういうリスクを踏んでなお、なぜ企業が正社員を雇うのかというと、組織に継続的に関わり、社内に人的・金銭的・ナレッジ的な価値を構築するという仕事は、正社員でないと難しいからだ。プロジェクトを回すだけなら私のような傭兵でも出来るけれど、フリーランスは通常何本も仕事を抱えているもので、先のような仕事をやれといわれても難しい。リスクを乗り越えた先にプレミアムがあるからこそ、企業は正社員を雇おうとする。

企業側がテイクするリスクは、コインの裏表で労働者にも降り掛かってくる。ジョブホッパーを正社員として迎えづらいというのは、企業がリスクを取っている以上は当たり前で、市場原理の話であって日本特有の労働環境とはあまり関係がないと思う。正社員に求められるもの(のひとつ)が継続性である以上、「継続性を提供できない」という実績を作ってきた人が不利になるのは仕方ない。そう言うリスクを労働者側も負担しているからこそ、フリーランスでは得られない手厚い保障を得ることが出来る。

では「自分にあっている職を実際に何度か体験しながらさがす」ということが一般的に行われる社会とは、どういう社会か。それは即ち、雇うこと・雇われることのリスクの低い社会であって、すなわちリスクプレミアムの価値も現在より低くなる。正社員を気軽にばんばかクビに出来たり、福利厚生や社会的地位も引き下げる。そうすれば企業も気軽に人を雇えるようになるし、ジョブホッパーも転職しやすくはなると思う。それがいいか悪いかはともかく、市場原理的にはそうだ。現在正社員が出ているプレミアムを保障しつつ、企業側のリスクのみを高めろ(=ジョブホッパーも受け入れろ)というのは成立しないと思う。

最後に、現在の社会で「自分にあっている職を実際に何度か体験しながらさがす」にはどうすればいいか。これは簡単で、雇われる側が、企業に対して大きなリスクを求めようとしなければ可能だ。つまり、バイトやインターン、フリーランスなどで色々な仕事に携わり、そこで結果を残し、企業側に請われることだ。優秀で必要な人材ならば、正社員として迎えてもっと広く深く社内にコミットしてもらいたいと考えるものだし、まあそのまま業務委託を続けてもいいと思うものだ。こういうキャリアパスは現実的にあるものだし、私もそういう働き方をしているし、実際に解雇要件が引き下げられて「転職しやすい」社会になるとするなら、程度の差はあれこそ正社員の労働環境が、こういう働き方に近づくのだと思う。