伊丹十三『マルサの女』

仕事の傍らにBGMとしてかける映画というものがあって、伊丹十三の『マルサの女』はそのうちのひとつだ。今日久々に見てみたが、やはりすごい傑作だと思った。

国税局において、法人の申告漏れや脱税を調査する板倉亮子(宮本信子)が主人公。対するはラブホテルチェーンを経営し、巨額の脱税を行っている権藤英樹(山崎努)。この設定からして面白い匂いが漂っており、実際に映画は全編面白いのだが、板倉と権藤のふたりが対峙するシーンになると物語はより深みを増す。

板倉も権藤も、己の職務に魂を捧げるワーカホリックして描かれている。板倉は小さな八百屋からパチンコ店まで、狼のように申告漏れを探し、税を取り立てる。権藤は犯罪も辞さずに己の資金を増やしていく。ふたりがなぜ執拗にそこまで職務に邁進するのか、その動機はあまり描かれていない。

だが、一点、それぞれの子供との関係において、ふたりは人間性を取り戻す。板倉は仕事に没頭する傍ら、家で待つ息子を気にかける。権藤は息子に貯めこんだ資産を渡すため、奸計を巡らす。二個の狼が、子供と繋がるときだけは人間に戻る。そして、板倉と権藤は互いのなかにその共通点を見出し、敵でありながら同士であるような、奇妙なバランスの関係を育んでいく。

だからこそ、ふたりが対峙するシーンは面白い。特に結末は出色の出来だ。執拗な検察の聴取に対しても、権藤は口を割ろうとしない。それは職業人としての矜持のようでもある。だが、そんな矜持を乗り越えていくのは、やはり人間らしい繋がり、敵味方を超えた人間同士の対話なのだ。同じ形の人間でありながら、同じ立場には立てないふたり。そのことを悟った権藤が取った、ある行動。かっこいい。小学生並みの感想だが、『マルサの女』はとてもかっこいい映画なのである。日本映画界が産んだ大傑作のひとつだろう。

マルサの女<Blu-ray>

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